【小説】溶かしてとろけて絡みつく

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倫理観崩壊創作男女

名前読み仮名関係・性格
蜜迷ミツメ
白 絹ツクモ キヌ蜜迷の幼なじみであり
お兄ちゃん的存在
紫乃 夜帷シノ トバリ女にも金にもだらしがない
絹と同じ大学に通っていた
登場人物

第一話

いつもの場所。
店内には見知った顔ばかりいる。しかし誰に声をかけるわけでもなく、1人でカウンター席に座る。
大人になってもなお人見知りは直らない。

けれど今日は久しぶりに、会いたくない顔を見つけた。
この店のスタッフ以外で唯一彼だけは、絹を見つけると必ず話しかけてくる。
同じ大学に通っていた頃に彼と関わる機会が多かったこともあり、話すこと自体は苦ではない。
ただ、いくばくかの劣等感を抱いているのも事実だ。

絹はどちらかといえば秀才肌で、何もかも努力で成し遂げてきた。

一転して、彼。夜帷は天才肌で何をするにも上手くやりこなしていくことが多い。
世渡り上手という言葉は彼のためにあるのではないかとさえ感じるほどに。
それに加え、派手ではないものの端正な顔立ちとスラリとしたスタイルの持ち主。
周囲が放っておくわけがない。
彼はとにもかくにも目立つ存在である。
ただでさえ目立つことが嫌いな絹は必要以上に関わることを避けるようにしていた。

しかし、ある時をきっかけに絹と関わりの深い人物が夜帷とも関係があることを知る。
正反対の性格をしている2人が交わることはないと思っていたのに、だ。

なんでこんなやつなんかと。絹には理解できなかったが、当人はそんなこと全く気にしていないのだろうという想像するに容易い。
「つーくも。何飲んでるの?」
こちらに気づいたようで、グラスを持ちカウンターの空いている隣の席に座る。
夜帷の人とやたらと距離が近い癖も絹が苦手としているひとつだった。
パーソナルスペースが狭いのは、絹に気を許しているからこそなのだろうが、もし誰にでもこの距離感で接しているのだとしたら。
そんなことはない、と信じたいが大切な人にも同じように接していたら?変な妄想が膨らみかけては払拭しようと追い払う
「あー、これ?なんだろ。なんか飲みやすいやつ」
適当に返事をすれば、カラン、と音を立て氷が溶けていく。
飲めればいい。美味しければいい。その中にあの子が好きそうな味だなって思うものがあったら教えてあげよう。それでいつかこの店に誘ってあげたい。そんな健気な気持ちで、まろやかなアルコールを口に含む。

「蜜迷ってさ、」
隣に座る男がいきなり想い人の名前を告げる。
「へっ?蜜迷ちゃんが、どうしたの」
名前が出た途端、被せるように続きを促す。あからさまに動揺しているのを悟られないようにしているが、夜帷に対してそれは全くの無意味であった。
「やっぱり食いついてきた。蜜迷の話しようとすると、つくもってすぐ反応するからわかりやすくて面白いんだよね」
からかうように、にたにたとした顔で話し始める
「そんなこと言われたって。蜜迷ちゃんは幼なじみだし妹みたいなものだから、僕が知らないところでどうやって過ごしてるのかなって。少し、気になっただけ」
想い人であり、幼なじみである蜜迷に対して世話を焼いたり気にかけたりなにかと甘い絹だが、蜜迷に対しての感情のそれがなんなのか、彼自身が自覚したことは無い。
大好きな幼なじみ。それ以上でもそれ以下でもない。気にはなるけれど、1人の生きてる人間を束縛したり自分の思い通りにしようとする権利があるはずもなく、彼女は彼女なりに好きなように生きて、笑って過ごしていてくれたらそれでいい。

そのあとも夜帷がなにか話しているが、全く頭に入ってこない。蜜迷の話ではないと分かると、彼の話はBGMへとなり変わり、また目の前のグラスを見つめ1人の空間を楽しむ。

かまってもらえないとわかっているはずなのに、夜帷は他の席へ行くわけでもなくずっと絹の隣に座っている。
何が楽しくてこんなに話しかけてくるのか、鬱陶しいのに嫌な心地がしないことが少し悔しいとさえ思う。
この居心地の良さも女の子が惚れる理由のひとつなのかもな、と絹は自虐的に笑った。

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